日本社名:株式会社アシックス
中国社名:愛世克私(上海)商貿有限公司(販売)
江蘇愛世克私有限公司(生産)
http://www.asics.co.jp/
愛世克私(上海)商貿有限公司、董事・総経理
兼 江蘇愛世克私有限公司、董事・総経理 小辻弘夫氏
「“世界のアシックス”を目指して」
<今回の企業> 近年の世界的な健康志向の強まりから、スポーツに対する人々の関心は年々高まりつつある。そして、世界中の注目を集めた2008年の北京五輪開催に伴い、巨大な市場を抱える中国でも、より多くの国民がスポーツに関心を向けるようになった。中国のスポーツ用品市場には、今やNIKE、adidasをはじめとする世界の強豪ブランド、李寧や特歩国際といった根強い人気を誇る中国国内ブランドがひしめき合っている。そんな競争の激しい中国のスポーツ用品市場において、ひときわ輝きを放つブランドがある――それが日本発ブランド“アシックス”だ。スポーツ用品業界において世界第四位のアシックス。現在もMLBのイチロー選手をはじめとするトップアスリートを中心に高い人気を誇り、その製品の品質の高さは日本の「ものづくり産業」を代表するといっても過言ではない。今回は、『世界のアシックス』へと進化し続けるアシックス・上海の総経理 小辻弘夫氏に中国における販売戦略について、お話を伺った。
−小辻様の今日に至るまでの御経歴を教えてください。
大学で管理工学を専攻し卒業後、アパレル関係の生産・販売を行っているアシックスの子会社に入社しました。そこで7年間テニスウェア、スキーウェアの企画・製造に携わった後、アシックスの本社に勤務するようになりました。その後の約10年、ゴルフ関連の製品に携わりましたが、2000年、弊社のゴルフビジネス撤退と同時にスキーウェア、アウトドア関連の製品にマネージャーとして勤務しました。そして04年4月より、江蘇省にある生産工場の副総経理として上海に赴任しました。06年4月には上海に販売会社が設立され、07年7月から現在に至るまで、生産・販売双方の会社の総経理を兼務しています。
−小辻氏とアシックスの出会いを教えてください。
私とアシックスの出会いは、高校時代の部活動がきっかけです。高校時代は野球部に所属しており、野球用品で有名だったアメリカのローリングスというブランドと提携を結んで、商品を取り扱っている会社がアシックスだということを知りました。株式会社アシックスは、1977年にオニツカ株式会社と株式会社ジィティオ、ジェレンク株式会社の3社が対等合併して成立しました。現在の状況とは異なり、私が入社した当時は合併してたったの3,4年、日本国内ですらまだ“アシックス”という言葉は聞き慣れない時代でした。ですが、社会人になってからもスポーツと関わっていきたいという強い想いがあり、弊社に入社しようと決めました。
−アシックスに入社されて以降、最も苦労されたことはなんですか。
28年間の苦労話を語るには3時間以上はかかりますね(笑)。でも、最も苦労したのは、やはり上海赴任後のことですね。日本人と中国人の外見は何ら変わらないにも関わらず、言語をはじめ、文化、価値観、感覚は全く異なります。そんな彼らが自分たちと同じ仲間として働いていることに、初めの一年間は戸惑いの連続でした。とにかく日本人、中国人それぞれにとっての“当たり前”という感覚が異なるため、この点に関しては今でも苦労している部分です。
−上海での御社の事業内容を教えてください。
上海におけるアシックスの事業内容は大きく分けて二つあります。まず、メインとなる事業が直営店、代理店を通してのシューズを中心としたアシックス製品の販売。そして二つ目が、江蘇省にある工場での製品生産です。この工場は日本国外唯一の自社現地法人工場として1994年に設立されました(その他世界各地にある工場はすべて外注工場)。この1990年代前半は、多くの日本企業が低コストによる製品生産を求め海外へ進出した時代であり、弊社もその“時代の流れ”をうまく利用して、中国進出を果たしました。現在に至るまで、世界中で販売されるシューズ以外のアパレル製品の一部は、ここ江蘇省の工場にて生産されています。今後、弊社がスポーツ用品・アパレル業界において世界展開の拡大を図る上で、この江蘇省の工場は弊社の“生産の核”として位置付ける必要があると私は考えています。
−企画から販売に至るまでのプロセスを教えてください。
弊社のメイン商品である “シューズ”を販売するまでの大まかな流れとしては、まず日本国内でデザインから企画を考案・設計し、日本の自社工場及び世界各地の外注工場へ送りサンプル製品を作成します。そして、そのサンプル製品を世界中の販売会社に一斉配送します。その後、各販売会社からサンプル商品に対する受注数を伺い、それに従って各工場で生産された製品を再度販売会社に送る、というのが一連のプロセスです。世界中で販売されているシューズのデザイン、企画に関しては、世界各地からの意見を取り入れつつも、日本本社が中心となって行っているのが現状です。また、機能性の裏づけとなる基礎研究や応用研究、開発業務は、神戸のスポーツ工学研究所で行っています。
−製品を高品質に維持するために、生産過程でこだわっている部分は何ですか?
弊社の生産過程でのこだわりは、全体の流れの中で徹底して“検品作業”をすることです。まず生地の検反(注1)から始まり、生地裁断後の全数検品、縫製の途中段階で検品、製品として通った後、もう一度検品、さらに出荷の前に最後の検品を行います。もし各検査の段階で不具合が見つかった場合は、その不具合を修復した上で最初の段階に戻り、再度各工程の順序を辿っていくという方法をとっています。やはりこのような手間のかかる検品作業を他の外注工場に委託すると、各工場からは非常に嫌がられますが(苦笑)、この作業は弊社の商品の品質を保つために、絶対に妥協できない部分ですね。この徹底した“検品作業”というこだわりが、最終的にひとつの欠陥商品をも出すことなく、常に“最高品質の商品”を世界に供給できている秘訣です。
注1:原反生地の性量、外観、風合い等の項目について検査判定する作業。(Wikipediaより抜粋)
−中国ではどのような製品を販売していますか?
現時点でアシックスブランド全体には多様な商品があるのですが、もちろんこれをすべて中国で販売するわけではありません。中国では10代から30代の若者を主なターゲットとしているので、それに合わせて販売製品のカテゴリー等を絞り込んで勝負していかなければなりません。現在はシューズだとランニングシューズとスポーツスタイル系シューズ、そしてオニツカタイガーをメインとして販売しています。オニツカタイガーとは現在の社名であるアシックスに社名・商標を変更する以前のブランドで、特にヨーロッパを中心にファッションシューズとして人気を集めているブランドです。
−ずばり!なぜオニツカタイガーは値段が高いのでしょうか?
実際に商品を手に取っていただけると一目瞭然だと思うのですが、オニツカタイガーは機能よりもデザインを重視して作られている商品です。それは刺繍であったり、プリントであったり、中には播州織(注2)など特別な生地をあしらっている商品もあります。そのため、結果的に非常に手の込んだ商品になるため、コストアップは避けられない部分でもあります。もう一つ、値段に関して言えば、安易に安くしてしまうと、モノの“質感”というものがなくなってしまいがちです。もちろん、必ずしも値段が左右するわけではありませんが、やはり高いものにはそれなりの“質感”があると思います。感性に訴えるようなブランドというものは“質感”を落とすと成り立たなくなってしまいますから。ここは大切にしていきたい部分ですよね。
注2:兵庫県(旧飾磨県)西脇市を中心とした地域で生産される綿織物。(Wikipediaより抜粋)
−日中間でのシューズの売れ行きに違いはありますか?
中国では、派手なデザインの商品が圧倒的に売れます(笑)。売れ行きの違いは“シューズの用途の違い”が大きく関係しています。日本の場合、アシックスのシューズは、もちろん普段用でも見かけるのですが、それよりむしろ本格的に競技をされる方が履かれる比率がかなり高いです。反対に中国で競技用にスポーツシューズを買うという方はごくごく限られており、スポーツシューズを普段用、つまりファッションの一部と捉えて履かれる方々がほとんどです。ですから競技用に特化した高価なシューズよりも、中国の消費者は“見た目が良く、いかに楽に街を歩けるか”という点を重視して購入しているというのが現状 |